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※再手術(他院)は自費での加療となります
アポクリン腺の過剰分泌により腋窩(わき)から特有な臭いを発する状態をいいます。
通常思春期から始まります。
多汗症が主に欧米で深刻なのと逆に、腋臭症(わきが)は日本、韓国、台湾と中国の一部で治療対象となっています。
欧米では腋臭や体臭は生理学的現象の1つとされ、不快に思う人も少なく、治療する人はほとんどいません。そのため英文の研究報告も少なく、あってもほとんどは日本、韓国、台湾、中国です。(腋臭や耳あかの研究は日本が一番進んでいるかもしれません)
後述しますが、腋臭は耳垢と密接な関係があります。これは日本人のルーツ研究に重要な因子となっています。日本人は大きく2つに分けられるようです。先住民族である「縄文人(古モンゴロイド)」と朝鮮半島から渡来した「弥生人(新モンゴロイド)」です。
ある学説によると縄文人は黒人白人と同じように耳垢は湿っており(腋臭あり)、弥生人の耳垢は乾いていた(腋臭なし)と言われています。
世界中ほとんどの人が腋臭もしくは体臭をもっていて、我々新モンゴロイドだけが「無臭」なのです。
最近の研究で「16番目の染色体にあるABCC11遺伝子が、わきがや軟耳垢に関わっている」ことが解明されています。
後述しますが、汗腺にはアポクリン腺とエクリン腺があり、前者の分泌亢進が腋臭の原因です。
アポクリン腺からの汗自体は無臭なのですが、低級脂肪酸を含んでおり、それが皮膚表面の細菌によって酸化され、さらにアンモニアなども加わって不快な臭いになるといわれています。
男女比は1:1でほぼ同じか女性がやや多い
平均発症年齢は男性18歳、女性16歳というデータがあります。女性の方が性徴が早いため発症も早いといわれています。性周期とも若干関係があり、生理中ににおいが強くなったり、排卵期に強くなる女性がいます。
臭いは汗の量に比例するため、発症時期は夏が最も多い
アポクリン腺は左右ほぼ同じだが、まれに汗や臭いに左右差を認めることがある。
(理由はよくわかりませんが、確かにそういう人はいます)
アポクリン腺は性腺の1つ(いわゆるフェロモン)と言われているため、通常思春期に始まり、中年以降軽減していきますが、中年以降は加齢臭が混在してくるため、「中年期にピークがくる」という報告もあります。
毛深い人にやや多い傾向があります。
(脱毛や剃毛すると臭いは軽減します)
食事との関係も示唆されており、脂肪が多く肉を好む人ほど臭いが強いといわれています。動物性たんぱく質や脂肪はにおいの原料ですから。ある文献によれば「和食中心の生活をすればにおいは軽減する」そうです。「和食は究極の消臭剤」だそうです。
戦前の古い文献では「肝機能や血液型とは関係ない」ことがわかっています。
自律神経と腋臭の関係も示唆されています。腋臭症患者は他に比べて自律神経の不安定な人が多く、手術により改善することがわかっています。
ほとんどのサイトではわきがと多汗症はセットになっています。それは同じ汗関係の病気であり、治療方法が似ているからで、実はまったく違う病態。本来は別個に語られるべきなのです。
全身には約400万個の汗腺があるといわれており、そのうち100万個がわきがに関係するアポクリン腺、残りの300万個が多汗症の原因となるエクリン線で、自律神経(交感神経)に支配されています。
アポクリン腺から出る汗は粘稠で、毛穴(脂腺)を通して出るため皮脂と混じり、更に細菌に分解されてにおうのです。動物の芳香腺が退化したものなので、フェロモンと関係すると言われています。体臭のきつい白人や黒人は、日本人の数倍アポクリン腺が多いといわれています。
一方エクリン腺から出る汗はサラサラしていて直接皮膚から分泌されます。無色無臭で、わきがとは直接関係ありませんが、足の多汗症では蒸れるために細菌で分解されてにおいを発します。
では多汗症のひとはエクリン腺の数が多いのか?と思いますけど、それを調べた文献によると腺の数は変わらないそうです。つまり1個1個の分泌量が多いのだと考えられます。
アポクリン腺はわき以外にも、外耳道(耳の穴)、乳輪、陰部に存在します。
特に陰部からも特有の臭いを発する場合があり、俗に「すそわきが」と呼ばれています。
あらゆる生物には「遺伝形質」があり、優性と劣性に分かれます。人間の代表的なものに肌の黒、白や髪の直毛、巻毛などがあります。肌では黒、髪では巻毛が優性形質なので、直毛の白人と巻毛の黒人の夫婦からは通常巻毛の黒人の子供が生まれるのです(若干薄くなりますけど)。
同じように、耳垢も軟耳垢(wet)と乾耳垢(dry)に分かれ、前者が優性形質、後者が劣性形質なので、軟耳垢と乾耳垢の夫婦からは通常軟耳垢の子供が生まれます。ただ形質によって完全(100%)遺伝する場合と不完全な場合があります。耳垢は不完全なので、子供全員が軟耳垢になるとは限りません。約80%に家族内発生を認めるという報告があります。
軟耳垢は俗に「アメ耳」とか「ネコ耳」、「ジル耳」とか呼ばれています。白人黒人のほぼ100%はwetですが、日本人は80%以上がdry。乾耳垢は前述したように新モンゴロイドの特徴なのです。
耳垢が湿っている日本人は約16%、残りの84%は乾いています。
軟耳垢は外耳道のアポクリン腺分泌物によるので、腋臭と軟耳垢の関係は以下のようになります。
腋臭症では約60%に多汗症を合併するといわれています。
逆に多汗症患者のどれくらいが腋臭なのかというデータはありません。
わきが(腋臭症)に関するチェックシートのようなものが、よくわきがサイトに掲載されていますが、単刀直入に、
の2項目を満たせば「腋臭症」という診断がついてしまいます。
多汗症ではヨードでんぷん反応を用いて範囲などを他覚的にしらべることができますが、腋臭の場合は「ガーゼテスト」でレベル診断をします。これはガーゼをワキにはさんで数分汗ばむ運動(階段昇降など)をしたあとに医師やスタッフがガーゼのにおいをかいで判定するというもので、下記のように分類します。
当院ではレベル3以上を「手術適応」としていますが、年齢、意思などを考慮してレベル2でも手術することがあります。
レベル1、2の場合は、制汗剤、脱毛、ボトックス治療をおすすめします。
診断がついた。ではどうやって治療するのか?
ですが、これが多岐にわたり、しかもそれぞれに一長一短があります。
侵襲の少ないものから順に解説していきます。
20%塩化アルミニウムに10%グリセリンのシンプルな組成。
防腐剤、香料、アルコール不使用。
100ml 2,200円(税込)。
基本的には制汗剤ですが、結果的ににおいも抑えるため、わきがの方にも有効です。
外用薬(塗り薬、ローションなど)は手軽で副作用も少なく、軽症の方には第一選択といえるでしょう。
ドラッグストアに行くと多くの制汗剤が売られていますが、一般的な「汗止め」はこれらで十分事足りますが、わきが・多汗症では無効なことも多いと思います。
← やはり一番効くのは「塩化アルミニウム」
各医療機関で独自のレシピで処方されており、20%前後のものが一般的です。使い方は、コットンなどに適量取りサッとひと塗りするだけ。直後から制汗効果を実感できるひともいますが、普通は数日かかります。寝る前に塗って、朝シャワーなどで洗い流すとかぶれなどを起こしにくくなります。
作用機序ですが、以前は「アルミニウム粒子が汗腺にふたをする」といわれていました。現在ではアルミニウムイオンが汗腺の細胞膜レベルで作用するという考えが一般的です。
市販では「オドレミン」という名前で売られていますが、濃度は不明。値段もやや高めなので、できれば皮膚科や形成外科で処方してもらう方がいいでしょう。
1978年と古いデータですが、「98%の患者に制汗作用が認められた」との報告があります。一方で45%がひりひり感を訴えたとのことです。
「25%塩化アルミニウムにアルコールを混ぜたものを使うと95%に効果がみられた」という文献もありますが、日本人はアルコールに弱いひとも多く、当院処方のものは「アルコールフリー」です。
エクロックゲル5%(科研製薬)
原発性腋窩多汗症(Hornbergerの診断基準
以下2項目以上当てはまる場合に対して2020年11月26日から処方可能となりました。
①25歳以下で発症
②対称性
③睡眠中は発汗しない
④1週間に1回以上
⑤家族歴がある
⑥日常生活に支障がある
有効成分はソフピロニウム臭化物で無色透明なゲルです。
使えない方は、前立腺肥大症、腋窩にかぶれがある、緑内障、妊婦、授乳婦、12歳以下(国内臨床実験をおこなっておりません)です。
作用機序はソフピロニウム臭化物がエクリン汗腺のムスカリン受容体サブタイプ3を介したコリン作動性反応を阻害し、発汗を抑制します。
HDSS(Hyperhidrosis disease severity scale)スコアが2(発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある)以上の方が適応となります。
効果は2~6週間連続の使用で治療終了時にHDSSが1または2(日常生活に時々支障がある~まったくない)であり、治療終了時の両腋窩合計発汗重量のベースラインとの比が0.5以下の患者の割合はエクロック群で53.9%、基剤群で36.4%でありエクロック群が基剤群より17.5%高く、優位差が検証されました。
セルニューデオドラントクリーム
30g 2,200円(税込)
NOV 常盤薬品(NOEVIA GROUP)
軽くのびて、べたつかない感触のデオドラントクリームです。
汗をおさえて気になるにおいをしっかり防ぎます。
【ご使用方法】
適量を手にとり、わきなどのにおいが気になるところになじませます。
一日朝・晩2回、清潔なお肌へのご使用をおすすめしています。
※「セルニューデオドラントクリーム」は、わき以外にも足等のにおいの気になる部分にお使い頂けます。
※顔・粘膜および除毛直後の肌へのご使用はお避けください。
【適量の目安】
片側のわきでパール粒大
【全成分表示】
有効成分:クロルヒドロキシAl
その他の成分:水、シクロペンタシロキサン、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、エタノール、BG、ポリアクリル酸アルキル、ジメチコン、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体、架橋型ジメチコン、グリセリンモノ2-エチルヘキシルエーテル、ビタミンE、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルカリウム塩、ヒドロキシアパタイト、ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト、セリサイト、酸化亜鉛
※1 有効成分 ※2 酸化亜鉛、ヒドロキシアパタイト ※3 湿潤剤 ※4 dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルカリウム塩:湿潤剤 ※5 製品の抗酸化成分
制汗ローション同様、汗を抑えることで結果的ににおいも減るため、わきがの方で受けらる患者様も多くいます。
料金
66,000~88,000円(税込)
「内服も制汗剤もいまひとつ、汗は止めたい、でも手術はしたくない」となれば、ボツリヌス製剤の注射という手があります。
両わきや手のひら、額などあらゆる発汗場所に注射することができます。わきの場合、まずヨードでんぷん法で汗の範囲を確認。発汗エリアよりひと回り大きめにマーキング。次に麻酔クリームを塗り30分ほどおくと、注射時の痛みがかなり軽減できます。麻酔が効いたらマーキングの範囲内に1cm置きにごく少量(1単位)づつ、片方で30~50単位、皮内か皮下に注射します。
注射してから4~7日後に効果が出てきます。6~10ヶ月持続するといわれています。
過去の文献では、わきで82%、手のひらでは100%の患者に効果が見られたとのことです。後述する「代償性発汗」もほとんどありませんし、治療費の高ささえ目をつぶれば最もすすめられる治療法かもしれません。
10~20%の患者にプラセボ(偽薬)効果があるとようで、いかに精神的な要素が大きいかという証明になります。
実際の動画をご覧になりたい方はコチラから
(苦手な方は見ないで下さい)
何といっても、手術以上に効果的な治療はありません。ただ、手術にはある程度のリスクが伴います。
この手術が他の美容外科手術と違うところは、「見かけと結果が一致しない」という点です。
つまり、二重や鼻の手術では、見かけがかっこよければそれで成功ですが、この手術はむしろ不十分な手術ほどキズがきれいで、きちんと汗腺を取れば取るほど、リスクは高くなり、キズあとは残りやすくなります。
残念なことに、リスクを恐れて、一部だけ取り除き終了してしまうクリニックもあります。
わきの下の有毛部を切って縫い縮めてしまうという原始的な手術法。ですが以前はこれが主体で、たまに「昔この手術を受けた」という患者さまが来られることがあります。確かに効果テキメンですが、キズの引きつれが強くなることがあります。「保険点数表」には今も記載されていて、自己負担額は後述する剪除法より安く、3万円程度です。
当院では初回からこの手術を勧めることはありません。ただ、他院で不適切な手術を受けたかたの再手術に皮弁法に皮膚切除を併用することがあります。
治療費用は両方で4~5万円。
使う薬や通院回数によって異なります。
実際の手術・症例写真をご覧になりたい方はコチラから。
(苦手な方は見ないで下さい)
現在最も一般的に行われているのがこの手術。
わきに1、2か所4~5cmの切開を入れ、皮膚を裏返して汗腺をじかに見ながらハサミで切除していく方法。「汗腺全て取れるか?」というご質問を受けますがそれは不可能。でも80-90%は取れているといわれています。
手順としては、まず麻酔。
綿を使うかガーゼにするか、縫い付けるかテープで固定するか、固定期間などは術者によってさまざまです。
手術後の経過はおおよそ以下のようになります。
※保険の剪除法は片側ずつの加療となります。
術後1日目(翌日) | 再診していただき、化膿や出血、皮膚の状態などをチェックします。 |
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術後3日目 | 異常なければドレーンを抜きます。 |
術後5-7日目 | 縫い付けてある綿を取ります。キズを含め全身シャワーが可能になります。状態によってはあと1週間くらい夜のみ綿を挟んで寝ていただきます。 |
術後12-14日目ころ | 抜糸をします。 |
術後3-4週間目 | 肩の挙上が制限なく可能になります。片方づつ手術した場合、この時点でもう片方の手術ができます。 |
よく「再発」についてご質問を受けます。他院で再発と言われたという患者さまが来られますが、きちんと切除されていれば理論的に再発はほとんどないと考えます。剥離だけすると、一時的に神経支配が途絶えたり、腺管が寸断されたためににおいが減って手術成功となりますが、数週間で神経支配が復活したり、腺管が回復したりすると再びアポクリン腺は活動しだします。
ですから、手術直後すごくよくても徐々に戻ってくるようなことがあれば、それは「再発」ではなく、「取り方が甘かった」ということになるかと思います。
その場合の再手術も可能ですのでご相談下さい。
ストライカーという
アメリカ製のシェーバー
以前は剪除法より効果が劣るとされていましたが、シェーバーの改良が進んだため、現在ではほぼ同じ効果が得られます。
傷あとも小さくて済みますし、剪除法よりもトラブルも少なく、何といっても経過が早いのがこの方法です。
欠点は保険が利かないこと。
当院での手術費用は両方で44万円(税込)※手術代(再診料・薬代がかかります)
片方づつされる場合は各26万4千円(税込)※手術代(再診料・薬代がかかります)となります。
ご予算が許すのであれば、剪除法よりもクアドラカットをお勧めします。
※現在、約6割の方が剪除法、4割の方がクアドラカットを選ばれています
この方法は、吸引管の先にシェーバーと呼ばれる歯(内筒)がついていて、汗腺を切除しながら吸引して外に出すものです。掃除機の先に電気かみそりが付いているようなものとお考え下さい。
左:内筒(ギザギザの歯が回転するのではなく、
1秒間に3000往復することで汗腺を除去します)
中:多汗症用の外筒
右:腋臭症用の外筒
エクリン腺とアポクリン腺では大きさが違うのでそれぞれに適した外筒を使います。
わきに局所麻酔をしたのち、腕側と胸側に5mm程度の切開をおき、特殊な剥離器械を使って汗腺と皮下組織の間を剥離します。その後、シェーバーを入れて汗腺を切除・吸引していきます。
切除し終わったら、洗浄して残った汗腺を洗い流し、ドレーンを挿入。剪除法と同じ綿を縫い付けて圧迫します。
経過については、日本語版HPをご参照下さい。
実際は3日後にはドレーンを抜き、圧迫の綿が取れ、1週間で抜糸、2週間前後で肩もフルに動かせるようになります。つまり剪除法より1、2週間早く復帰できます。
どのような手術においても効果がある反面ある程度のリスクはつきものです。
手術を受けられるときは必ずそのリスクについても説明を受けご理解下さい。
術後合併症には術後早期に起こるものとキズが治ってから起こるものがあります。
下記のうち、1~5は早期に起こるもの、6~8はキズが落ちついてから起こり比較的長期にわたるものです。
実際に起きた合併症の写真をご覧になりたい方はコチラから
(苦手な方は見ないで下さい)
術後の硬結や拘縮は痩せていて皮下脂肪の少ない方ほど強く出ます。これに対しては「ヒルドイド」というクリームを使います(保険診療可)。
色素沈着はなかなか改善しないのが現状です。日焼けしやすい肌質で、浅黒い肌の方は色素や傷跡が残りやすくなります。ハイドロキノン製剤やトレチノインの外用で対処します(保険外)。体質によることが多いためクアドラカットでも保証対象外とさせていただきます。